猫や小鳥の粘土作品で人気を集める立体イラストレーターのヨシオミドリさん。
売れっ子作家となった今ではもっぱらパジコのハーティーを使う彼女ですが、初期の作品では100均の粘土を使っていたとか!そんな驚きエピソード満載のヨシオさんに、作品がつなぐ素敵な縁や立体作家としてのこれまでとこれからについてお話を伺いました。
自称?イラストレーター時代に
舞い込んだ粘土の仕事
ヨシオさんは最初はデザイナーだったんですよね?
ヨシオミドリさん(以下、ヨ): そうです。もともとはデザイン事務所にいたんですが、「オレ、イラストレーターになる!」みたいな感じで事務所を辞めて(笑)。自称?イラストレーターに転身したつもりだったんです。
その後は、イラスト作品をホームページに載せつつ活動したりしていたんですか?
ヨ: 個人的な趣味のホームページに、大好きな文鳥のイラストや粘土の作品を載せてました。ずっとデジタルデザインの仕事をやっていたので疲弊してて、休みの日はアナログなことがしたいと思って。当時文鳥を飼っていたんですが、そういえば文鳥のグッズってないなって思って。手の上に乗せたり、触れたりできる粘土作品を作って写真を撮って、1人でニヤニヤしながら楽しんでたんです(笑)。
なるほど、それらの作品をホームページで見た方から粘土作品を作ってほしいと声がかかったんですね。
ヨ: そうなんです。でも、私はイラストレーターなのに、なんで粘土なんだろうってモヤモヤしながらやってました。
そんななか20人の作家でポストカードブックを作ることになって。粘土とイラスト、どっちを載せればいいの?って迷ったんですよね。
仕事としてはイラストレーターとしてやりたいと思っていた時期ですもんね。
ヨ: やっぱり20人で1冊のポストカードブックとなったら、目を引かなきゃ仕事なんてもらえるはずがないと思ったんですよ。イラストをやりたいけど、目立つなら粘土しかなくない?って本末転倒なんですけど思ったんです。
他のみなさんはイラストだったんですか?
ヨ: そうですね。立体作家は私を含めて2人で、あとの18人はイラストレーターでした。それで、粘土にしようって決めて。文鳥以来、久しぶりに自発的に作ってみたら思った以上にできてたので、やっぱり粘土なのかなって(笑)。
粘土の方が向いてるかもしれないと?
ヨ: そうそう、楽しいし!イラスト描いてるときはやっぱりちょっときつかったんです。イラスレーターの人口は多いし、いわば地方予選から始めなきゃいけないけど、粘土はすでにシード権持ってるかもなって。
それで、ポストカードブックが出て、大阪でイラストレーターのグループが数多く展示する展示会と交流会に出たんですよね。反響はいかがでしたか?
ヨ: 交流会の参加人数が多かったので、展示会場で作品見てみて気になる作家さんがいたら事務局の人に声をかけるんです。すると放送で呼んでもらえるってシステムだったんですけど、私、めっちゃ呼ばれたんですよ。その後も「あ、粘土の人でしょ!」「名刺ちょうだいちょうだい!」って言われて。やっぱこれは...(笑)って思って。なんか諦めたっていうか現実を見たんです。あ、粘土なんだな、こっちを頑張ろうって。
消えた「迷い」と
消したい「どうだ臭」
そのころ、東京で営業活動もしたんですよね?
ヨ: そうですね。小学館の絵本事業部やめばえ、チャイルド本社、博報堂...とか結構な大手に。生まれて初めての営業だし怖くてしょうがなかったんですけど、評価は良かったです。なんなら今すぐにでも仕事したいって言ってくれた所もあって。
すごい!
ヨ: まぁ、とはいえ仕事は来なかったんですけど(笑)。ただその場でダメって言われたら諦めるつもりだったんです。でも、荒削りだけどいいものを持ってるよって言ってくださって。
実はこのときのポートフォリオにはイラストも入れていたんですが、イラストにはどなたも触れなかったので、この次からイラストページはなくなりました(笑)。
吹っ切れたんですね。
ヨ: そうそう(笑)。めばえの副編集長に作品を見て頂いたのですが、もっと肩の力を抜けばいいのにって言われて。後々わかったのですが「どうだ!」って作ったものは、すごくいやらしい感じが見えるんです。「どうだ臭」みたいな。編集者はプロなので山ほど作品を見ているからそれがすぐにバレちゃう。でも当時の私は「力抜いて、ヨシオミドリ全開で遊んで作っていいんだよ」って言われても全然意味がわからなかったんです。
101匹の猫が
桃太郎を連れてきた?!
コーヒー豆専門店の店内個展の様子
ヨ: それからすぐ大阪のグループ展つながりで個展が決まって。広島のコーヒー豆専門店の店内個展だったんですが、2週間後に3点の作品が必要と言われて。お店の写真を見ていたら、コーヒー豆がどんどんどん!って置いてあるすごく雰囲気のいいところだったので、その隙間に猫がいっぱいいたらかわいいかもって思って、101匹猫(ニャン)ちゃんを思いつきました。これを1点にしよっとって(笑)
わー、なるほど!それでこの猫が生まれたんですね!
ヨ: 2週間、一心不乱に101匹の猫を作ったんです。ほぼ徹夜で。それまではまだそんなに粘土が楽しいっていう、いわゆるゾーンみたいなところには入ったことがなかったんです。でもあのときはランナーズハイみたいな状態で。で、販売用のポストカードのために近所の公園に猫たちを並べて写真撮って。広島まで設営に行けなかったので、作品とポストカードを箱に詰めて送ったんです。向こうはドン引きでしたけど(笑)。
3点と思ってるから101点あったら驚きますよね。
ヨ: えーっ!?て(笑)。で、お店に1匹ずつ猫ちゃんを並べてもらった写真を見て、すっごく嬉しくて。
それとほぼ同時期に、お付き合いのあったデザイン会社から企業用カレンダーのコンペに参加しないかと言われて、ちょうど手元にあるからって公園で撮った猫達の写真を送ったんです。そしたらトントン拍子にカレンダー発売が決まって。
今毎年出しているカレンダーですか?
ヨ: その前身のカレンダーですね。もう超ビックリ!
で、このカレンダーを年末のご挨拶用に、めばえの副編集長に送ったんです。そしたら「大変良いカレンダー!ありがとう!こういうのが見たかったんだ」って初めて褒められて。猫を作ってるときめちゃくちゃ大変だったけどすっごく楽しかった。肩の力を抜くってコレのことだったんだ!って。
相手の出すヒントやお題に応えられるだけの努力ができるのがすごいですよね。
ヨ: 暇だったんですよ〜!それに恵まれてるんです。ちゃんと道標があると言うか。来ると言うか。
で、その直後にめばえから桃太郎の仕事が来たんです。憧れのめばえに載るだけじゃなくて、日本国民ほとんどの人が知ってるような桃太郎の挿絵を作るなんて怖すぎて2週間泣いてました。
作り始めは肩の力が入っていて全然できなかったんですが、なんか急に降りてきたみたいにブワーッとでき始めて。最初エンジンかけて暖機運転みたいなのが必要で、でもトップギアに入ったらもうずっと楽しくて、寝なくても平気なくらい。本当に楽しくて、その頃にはイラストのことなんてすっかり忘れてました。粘土が天職なんだって。
すごい...。
100均粘土からハーティへ。
粘土は最初からパジコ製品だったんですか?
ヨ: 違います。高くて手が出なかったので(笑)。仕事がどうなるかわからない状態では買えなかったです。その頃は100均の粘土で良いのがあったので使っていました。ただ速攻で廃番になってしまって(笑)。こういうことがまたあったら困るので、ちゃんとした会社の粘土を使おうと思って、いろいろな粘土を取り寄せたんです。
ちなみに、それはいつ頃ですか?
ヨ: 桃太郎までは100均の粘土でいきました!で、一生使える粘土を選ぼうと思って、片っ端から取り寄せて全部触ってみたんですけど、最終的にパジコのハーティが1番良かったんですよね。白い色も1番綺麗でした。
ありがとうございます。
ヨ: どうぶつしりとりって作品があるんですけど、各社の粘土でてきてるんですよ。触ってみただけじゃなくて、作ってみて、着色してみて、どうなるか見てみたかったので。それで、やっぱりハーティいいわ〜って思って。量もたっぷりあるし、ここの会社はなくならないだろうって思って。100均の粘土を使い切った後から、ずっとハーティです。
パジコとの出会い
ISOTでの展示風景
パジコとのお仕事はどんなきっかけではじまったんですか?
ヨ: それがいろいろあって(笑)。割愛しますけど、さっきのカレンダーのお話の発売元の杉本カレンダーさんと直接お仕事する事になったんです。で、杉本カレンダーさんが東京ビッグサイトの展示会(ISOT)に出展するので、君も一緒に来てカレンダー用の猫だけでなく他の作品も展示していいっておっしゃって。会社のブースの中に私のブースも作ってくれたんです。
パジコ南部(以下、南): カレンダーのブースなのに結構なボリュームで粘土作品が展示されてて、あれ珍しいな〜と思ったら本人がいたっていう。
パジコにいると、展示会で粘土っぽい作品見つけると、食いついちゃいますよね。
南: そうそうそう。目立ってたんです!
ヨ: 名刺に目を向けたらパジコだったので、キター!ってめちゃくちゃテンション上がって、これは逃したらダメだと思って。その翌年の個展に来ていただきました。そのときも、食い気味で「会社に遊びにいってもいいですか」って口約束だけして。その年の11月に会社にお邪魔させてもらいました。翌年の干支の巳をハーティで卵型に作って、持って行ったんです。
南: ヨシオさんが来社したときは会議室を取っていた先輩のミーティングが突然なくなったので、時間をたっぷり使えたんですよね。そしたら社長が突然会議室に入ってきて。
ヨ: 干支の作品を社長がすごい気に入ってくださって「これ年賀状にしたい」とおっしゃって。「それ仕事ですか!?」って聞いたら「仕事仕事〜」って言ってくださって、仕事をさせていただいたんです。
南: ほんとにちょっと顔合わせの予定が、たまたま先輩の会議がなくなって。もともとの時間の予定だったら社長にも会えてないんだよね。
ヨ: そう、毎回東京に来るたびに大きなきっかけがあって。恐ろしく運がいいんです。運が良すぎて帰りの飛行機落ちるかもと毎回思ってました(笑)。
いや、もう全ては作品ですよ!